数年前にふっと思った疑問。自分自身、初めて見たのは1990年代初め`シブカジ`ブームの頃、オルテガ、センチネラ、トルフィリオスのチマヨ御三家。もちろん、それに付随するファッションブランド、ポロカントリーやRRLなんかが、それっぽいのを作ってましたが、オリジナルとしてはチマヨの御三家だと思います。
ネットで調べてもそんなマイナーな情報は出てきません。聞き込み&文献に頼るしかない、ビンテージに詳しい友人にもいろいろ聞きましたが、だいたい、80年代中頃のオルテガ止まりで、古いものは40〜50年代、チマヨ ブランケットを裁断して作られたジャケット、袖がコーデュロイになってるやつや、ロング丈のもの、主にレディースが中心でした。
そもそも、ニューメキシコ州、チマヨ地方は1810年代頃にスペイン(今のメキシコ)からの入植者たちが住みついたところでメキシコ、サルティージョ地方からの技術であるラグ織りを引き継ぎました。時同じくして原料であるウール、羊も家畜として連れてきました(元々、ニューメキシコ地方には家畜として羊はいませんでした)なので基本的に`ナバホラグ`と`チマヨラグ`は別物なんです。実際、オルテガ、センチネラ、トルフィリオスの御三家も全てスペイン語の名前です。
チマヨ地方に入植したスペイン人たちはサルティージョ地方に伝わる`サラッペ`(薄手のブランケット、ポンチョや衣服に使われてた)の技術もあったので衣服として裁断、縫製できるぐらいの厚み、ラグというよりブランケットぐらいの厚みの物をつくり、コーデュロイ素材と組み合わせ、観光客向けにジャケットや小物入れなどを作ってました。1950年代、ルート66を車で旅する、アリゾナハイウェイの読者層である裕福な白人たちに評判が良かったそうです。
1980年代後半、エイズパニック後のNY、健康的な`何か`を求め、サンタフェに移り住む人たちが多いなか、ラルフローレンが仕掛けた`サンタフェスタイル`ブーム、これで一気にNYからインディアンジュエリーを初め、サンタフェの風が吹き荒れます。
時同じく、DCカジュアルブームが落ち着き、新しい何かを探してた日本のセレクトショップバイヤーはNYでラルフローレンの仕掛けた`サンタフェスタイル`に感銘を受け、アウトレットでの現物仕入れなど、リアルなアメカジスタイルを追求した結果`シブカジ`というムーブメントが生まれます。501、517、紺ブレ、デニムシャツ、レッドウイング、そんなアイテムの一つとして`ラグベスト`が入ってきます。
ラルフローレンが作ったとか、いくつかの諸説がありましたが、自分がリサーチした結果、ラグベストを作ったのは1982年頃、フランス、パリのセレクトショップ`HEMISPHERES` エミスフェールのバイヤーが`ヨーロッパから見たアメリカ`(昔、よく聞いたフレーズですね)をコンセプトにNYからSFまで、ネタを探して旅してた際、ニューメキシコに立ち寄り、チマヨ地方に行った際、素晴らしいラグをみて`このままくるっと丸めて、肩と袖を裁断し、1枚のラグから1着のベストができないか?!`そんなシンプルなアイデアから生まれたものだと。
当時、アメリカを代表するファッションブランドはラルフローレンぐらい、ですが、実際ラルフローレンの物作りはアメリカのトラディショナルな物、J PressやBrooksBrothersを噛み砕いてわかりやすくしただけ、カジュアルなセンスではヨーロッパのブランド、シピーやリートレボー、ピカデリーなど、アメリカの匂いのする、どことなく上品な感じ、そういう物を見てきたパリの人たちがリアルなアメリカンアイテムを取り入れる目的でいわゆる展示会やショールームを回るのではなく、用意された物を仕入れるのではなく、自分たちの価値観で物を探す、そんな旅の途中で見つけた物だと思います。
`セントジェームスのバスクシャツに合うベスト`というコンセプトのもとに生まれたラグベスト、確かに合いますね。履き古したリーバイス501、バスクシャツ、ラグベスト、JMウエストンやオールデンのローファー、アンティークのロレックス、など永遠のスタイルだと思います。
こういうラグをみて、くるっと丸めて、
背中はこんな感じで、柄が中央にきて、袖を裁断して、
で、ベストに仕上げる。1枚のラグを極力無駄にするところなく、ベストにする、もちろん、脇にシームはなく、柄は続きます。
1960〜70年代のアリゾナハイウェイを読み漁りましたが、ラグベストに関しては一切出てきません。なので82年以降、エミスフェールのバイヤーが考案した、この説が一番有力かと思われます。
HEMISPHERESに関してはネットで調べたところ、残念なことに2014年2月で同ブランド及び店舗は消滅(KANEMAN Co.,LtdのHPで記載)まあ、時代の流れなんでしょうがないですね。ラムズウールのセーターがすごい色数あってディスプレイがグラデーションになってたりとか、サンフランシスコのワークウェアブランド`カリフォルニアブランド`があったりとか、90年代、南船場にあった店舗を思い出しました。ラグベストをジャケットのインナーに合わせたり、デニムはもちろん、ウールのスラックスに合わせたり、タイドアップしたり、カジュアルアップ&ドレスダウン的なコーディネイトがよく合いますね。
`1枚のラグから1着のベスト`非効率な物作りですが、せっかく美しく織りあがったラグを裁断して組み合わせるのはもったいない、、できるだけ無駄のないように、そうすることによってファッションだけではない何かが生まれたのだと。
外の人間が入ることによって新しいものが生まれる、伝統あるものを壊さずに新しいものを生み出す、そんな仕事が素敵です。